歯を残すための最後の
治療である「根管治療」
歯の内側にある歯髄腔というスペースには、血管や歯の神経などが走っている組織があります。根管と歯髄腔は密接しており、歯の外側の骨と血管や神経も繋がっています。
虫歯が悪化すると歯の神経に侵食してしまうため、感染した根管を治す治療(感染根管治療)と歯の神経を取り除く治療(抜髄)を実施しなくてはいけません。
一昔前だと抜歯が必要な状態でも、現在では治療技術が発展してきているため、歯を抜かずに治療をすることが可能となりました。
当院では、歯を残すための最終手段として、マイクロスコープを使った精度の高い根管治療を行っております。
「歯の神経を抜く」って
どういうこと?
歯の神経は血管と神経組織から成り立っており、顎の中の血管から歯に栄養や水分を運ぶ役割や脳に痛みを感じさせる役目を担っています。
そのため、歯の神経を取り除くと歯が栄養・水分不足になります。また、神経が途中でなくなるため、水がしみる、歯が痛いなどを感じられなくなります。神経の有無によって、土に埋まって生きている木と、枯れてしまった木のような違いが見られます。通常、木は土から栄養と水分を得ているので折れることが稀ですが、枯れ木は水分不足となりよく折れるのと同様に、神経を失った歯は部分的に欠けたり折れたりしやすくなります。
歯の神経を残すメリット
歯の神経(歯髄)は歯に
栄養を運ぶ
重要な組織
歯の神経は歯の中心にあり、専門用語で歯髄と言います。歯髄には神経や血管があり、栄養を歯に運ぶ大切な組織です。その他にも、温度的・化学的・機械的な刺激を痛みとして感じさせる役目などを担っています。
歯髄を除去する治療は根管治療と言い、日本での成功率は30〜50%です。成功しなければ、歯の根元付近に膿ができたり痛みを引き起こしたり、歯の寿命が短くなったりする場合があります。そうなると再度根管治療が必要になり、何度も治療を繰り返すケースもあります。何度も根管治療を繰り返しても絶対に治るという保証はなく、悪化することさえあり、最終的には抜歯が必要となることさえあります。
当院では重症の虫歯に対しても、歯を長持ちさせるためにまずは神経をできる限り温存し、うまくいかなければ抜髄するという流れで治療を進めることが多いです。
残存する神経により、虫歯になっても早く気づける
被せ物や詰め物をした歯は、虫歯になりにくいと一般的には考えられていることが多いですが、実際は異なります。被せ物や詰め物と、残っている歯との間から虫歯が再発することが多いです。神経が残存していれば痛みを自覚できるため、虫歯が悪化していくのが認識できますが、神経を失った歯では痛みを感じられずに虫歯が増悪していき、被せ物が取れてきたケースなどを含め、最終的に抜歯する場合もあります。進行した虫歯でも抜かずに済むケースも見られますが、多くの場合は残存した歯が薄く耐久性がありません。そのため、歯の神経が残存していれば、虫歯が再発しても早期発見・早期治療できて抜歯せずに完治する可能性が高いという利点があります。
歯の根に挿入する支柱の種類により
歯は割れやすさが決まる
根管治療を行った歯は、歯質があまり残っていないため、根管に留置する支柱が楔効果によって割れてしまう可能性が高まると考えられています。歯を割れにくくするためには神経を残すことが大切です。歯の神経が残れば、歯の歯質が多く残るため支柱が根管に入り込みません。そのため、歯が割れにくくなり歯を抜かなくて済みます。
神経を失った歯は、多くの場合に虫歯の影響で既に大きく欠けているため、被せ物を装着する際に支柱を歯の根に埋めます。
既に歯の根は、大部分が削られて脆くなっていますが、この状態で金属製の支柱を挿入すると、楔のような力がかかって歯の根が割れる、ひびが入るなどの可能性が高まります。歯の根が割れた場合には、抜歯が必要になります。
歯の神経が残存していると、削る歯も必要最低限だけに抑えられ、金属製の支柱を留置するケースも減少するため、歯の根が割れずに抜歯せずに済むことが多いです。
歯を残す治療の種類
歯を残す主な治療は、感染根管治療と抜髄という治療があります。その他の治療法として、様々な要因が影響して上から患部を触れない際には歯茎を切って下から治療を行う外科的歯肉療法や、歯髄を温存できる患者さまに行う歯髄保存療法などがあり、虫歯の病状や神経の状況に合わせて治療法を選びます。
以下では、歯の状態に合わせて行う治療法について簡潔に解説します。
歯の神経が残せる場合
歯髄保存療法
諸検査が終わり、歯髄に生活反応があった患者さまには、まずは歯の神経を温存します。虫歯を削った後に、特殊なセメント(MTAセメント)を用いて殺菌しながら封鎖し、神経を守ります。その後、経過を見ながら歯の神経が適切に温存できたかどうかチェックし、温存できた場合には歯冠を修復します。
歯の神経を温存できれば様々な利点があるため、できる限り温存したいと考えています。
歯の神経が残せない場合
抜髄(根管治療)
虫歯が歯の神経を侵食して壊死してしまうと、神経を取り除く必要があるため、抜髄治療を行います。壊死した神経を除去し、根管内を消毒した後、根管充填という薬を用いて歯の根を埋めつくし、基部を作った上にクラウンを装着します。
根管充填をしっかり行わなければ、再度感染するスペースができてしまうため、レントゲン検査を使って充填剤が隙間なく埋まっているか、治っているかをチェックします。
歯の根が感染している場合
感染根管治療
歯の根が感染した状態とは、歯髄に侵食して歯の根が感染し、歯を支えている歯槽骨が溶けている状態です。
歯の根に膿と同じような袋状の空間ができるため、根尖性歯周炎を発症します。歯槽骨が溶けるため、歯周病と間違われることも多いです。
炎症が拡大すると歯根嚢胞や根尖病巣などを発症する恐れもあります。
感染根管治療は、初回治療が非常に大切です。初回で適切に治療し再度感染しないようにメインテナンスすることが、なんとか残存できた歯の寿命を長くするコツです。
上からの治療が困難な場合
外科的歯内療法
根管が石灰化してしまって狭くなり、器具が根の先端まで操作できないほど視野が悪い場合や、膿の袋を除去しない場合などには外科的歯肉療法を実施します。
外科的根管治療は、治療の第一選択肢となることはありません。根本的にトラブルを解決するためには、上から適切に根管治療を実施した後、外科的歯肉療法を用いることが大切です。代表的な外科的歯肉療法として、意図的再植術や歯根端切除術などがあります。
歯を残す治療の成功率を上げるために当院が行っていること
歯科用CTを用いた精密な検査
当院では歯科用CTを用いた検査を行います。通常行われるレントゲン検査では、歯を平面構造として観察しているため、精密に根の構造をチェックするのは困難です。一方、歯科用CT検査では、歯の内側を3D画像で撮像して小さな管や根の形も分かるため、より診断や治療の精度を上げられます。
マイクロスコープで
正確な治療を
歯科治療法には様々な種類がありますが、根管治療はその中でも最難関の治療法の一つで、通常は治療の成功率は高くありません。原因としては、歯根の中まで目で確認しにくいこと、歯根の形状が単純ではないことなどが挙げられます。
当院では、マイクロスコープと呼ばれる手術顕微鏡を用いることで、根管の中を細かい部分までしっかりと観察して治療をしております。より丁寧にしっかりと治療できるため、成功しやすくなります。
再感染を防ぐためラバーダムを使用
根管治療では、唾液の中にいる細菌が根管に感染しないようにすることが重要です。治療している際に唾液が根管内に流れ入ると再度感染してしまいます。
このような状態を避けるため、当院では根管治療を行う時に、「ラバーダム防湿」と呼ばれる方法を採用しています。ラバーダムと呼ばれるゴム製のシートを歯に装着する方法で、唾液が根管に入り込むのを防ぎます。欧米ではこれが標準的に行われていますが、日本では今でも数%の歯科医院でしかこの手法を取り入れていません。
ニッケルチタンファイルの使用
一般的には根管治療を行う時に使用する道具として、ステンレスファイルがよく使われています。当院では、より柔らかく、安全性も担保しつつしっかりとした治療を行えるニッケルチタンファイルを導入しています。また、ニッケルチタンファイルは、根管内の清掃がよりしっかりと行えるため、少ない通院回数で治療できます。